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Vol.2 Motoko

Bookbinding course

一冊の本に導かれて 

定年を迎えたあと、専門学校や大学などふたたび学びの世界に身を置く、ということはスウェーデンではそれほど珍しいことではない。レクサンド国民高等学校にもそうした生徒が多く席を置いている。とはいえ、日本でそれは幾分難しいこと。元子さんが「万難を排してここに来た」とまで言う、その理由になったのは、しかしたった一冊の本だ。
「いつも持ち歩いているバイブルのような本」は題名を「Vägmärken(道しるべ)」という。著者は第2代国連事務総長、スウェーデン人、ダーグ・ハマーショルド。1961年の飛行機事故死のニュースで名前を知り、しばらくしてこの本に出会って以来、元子さんが人生の様々なシーンで読み返し続けているという本。

「自分の大部分の時間を他のことに費やさなければならなかった時、本当にやりたいことが見えてくる」長く大変だった夫の看護のあいだ「もし私に自分のやりたいことができるチャンスがあったら、スウェーデンに行きたい」という思いにたどりついた元子さん。
2005年友人に付き添ってもらい、初めて訪れたのは南スウェーデン。現在博物館となっているハマーショルドのサマーハウスだ。なんとその時偶然にも彼の生誕100年祭が催されており、様々な書籍に遭遇。それらスウェーデン語の本を読めずとも買い込み、東京でのスウェーデン語コースを受講した。一人でウプサラ(彼の育った場所)での語学研修や、ピーテオからルーレオへの旅などを経て、たどり着いたのがレクサンド。

「あなたはどうしたい?」

元子さんが通うのは2年制のブックバインディングコース。「芸術関係は疎いけど、本を読むことは好きだったので、そういう人たちの本を自分のアイディア、色や紙をつかってつくるというのはすごく素敵だな」と決めたという。実はレクサンド国民高等学校は北欧で唯一製本技術が学べる場所だ。
元子さんが日々手がけるのは、もちろんハマーショルドの著作。そういう生徒の強い思いを受け止める風土がこの学校にはある。「最初に先生が、こうして作る、と見せる。日本人である自分は、全く同じものを作ろうとしてしまう」でも「他の生徒は最初から自由に作る。それが認められている」

ということに感じ入る元子さん。「あなたはどうしたい?と先生はきいてくる。先生は生徒のやりたいことをお手伝いする存在なんです」逆に「自分のやりたいことがない人には大変だと思う」とも。
何度もスウェーデンに来ていた元子さんだが、初めての長期滞在。スウェーデン人の働き方、家族との時間の使い方など、学校以外の場所でも学ぶことが多いという。レクサンドの美しい環境、自分たちの土地の文化への愛、手で作ること。教わっているのは「生きることの基本、という気がする」という元子さん。月曜日は始業時間が1時間遅れであることにも「週の初めは体のエンジンがかかりにくいでしょ」と笑う。

愛犬にとっても理想の場所 

元子さんの1日は早い。なんと日本から愛犬(たかね)も一緒に来てくれているからだ。4時半ごろ目を覚まし、ゆっくりと読書の時間をとる。6時からはたかねのお散歩。スウェーデンの四季に毎日感動しながらの30分。「レイフ(製本コースの主任教授)に犬を長いことつなぎっぱなしじゃだめだよ」と犬の権利を諭されたのもスウェーデンらしい。

家に戻り、朝食をとってから学校へ。始業は8時45分。普段の授業のほか、講師を招いたカリグラフィーやレタープレス、金箔貼りなど特別講座も。授業は15時45分までだが、生徒の自主性を重んじ、授業のある期間アトリエは24時間解放されているのは全コース共通だ。
18時ごろ家に帰ると、元子さんはレイフに言われた通り、まずは再びたかねの散歩にでかける。